リスボアカジノ見学
・ 二日目の挑戦
昨日のマカオパレスで「少しやっていこう」という気持ちを抑え、
今日はリスボアカジノを見学することにした。
・ リスボアカジノ
リスボアカジノは、地下1階から4階まで。
一般客は2階までで、3・4階は高額レートのフロアだ。
最も人気なのはバカラ。
他に、大小・ブラックジャック・ルーレット・スロット、
そして、名前も知らないテーブルが二つあった。
地下一階と3・4階にはバカラしかない。
最上階のロイヤルルームでは、最低ベットがUS2000ドル。
VIPルームでは、さらに掛け金が上がるという。
入室時には、思わず緊張した。
・ ディーラーの違い
2階や地下のディーラーは無表情で、
客とのやりとりも機械的だった。
一方、3階以上の高級フロアでは、
ディーラーの表情が柔らかく、
客の冗談にも笑顔で応じていた。
・ 自分のプレイと結果
僕は1階と2階の一般ベットで遊んだ。
バカラにも挑戦したが、ルールがよくわからず、
結局、深くは手を出せなかった。
13時半から22時まで、飲まず食わず、座らず、
ひたすらプレイを続けた。
結果は日本円でプラス1万円。
カジノに来て「勝てたらいいな」と思っていた、
まさにその額だった。
・ 虚脱感
夜中、何か食べようと外に出た瞬間、
頭を締めつけられるような疲労を感じた。
マクドナルドでチキンマックナゲットを買い、
蒸し暑い公園のベンチに座る。
湿度80%。
ぼんやりと食べた。
勝てたのは嬉しい。
しかし、満足感はなかった。
――もっと勝ちたい。
・ 現実の話
当初の目標額の1万円を勝った。
明日からは普通のマカオ観光をしようと思う一方で、
やはりカジノに戻りたい気持ちがある。
ラッキーゲストハウスで聞いた話を思い出す。
ある旅行者が全財産をカジノで失い、
香港で日本語教師をしているという。
自分がそんな無茶な賭けをするわけがない――
そう思いながらも、少し怖くなった。
・ 明日からの予定
今日は5月26日。
香港からイギリスへ発つのは5月30日。
遅くとも29日には香港に戻らねばならない。
この予定がなければ、
僕はいつまでもマカオにいたかもしれない。
博打にハマるはずのない僕が、
一日中カジノにいた。
どんなに熱くなっても、
イギリスへ発つまでは“期限付き”だ。
さて今、23時15分。公園にいる。
ホテルに帰って寝るのが最良なのだろう。
――だが、もう一度カジノに行こう。
旅の費用

カジノ収益

回想
日記を読み返して、まず驚いた。
――僕、VIPルームに入ってるじゃないか。
どうやら当時のリスボアには、
「庶民立入禁止」のような明確な仕切りが存在しなかったらしい。
身分証チェックもなければ、VIP会員証の提示も不要。
カバン検査も、不審者チェックもない。
いま思えば、どう考えても“ゆるすぎる”システムだった。
だから僕は、緊張しながらも、奥へ、奥へと進んでいた。
――もしかすると、そのさらに奥には、
入り口すら見えない「真のVIPルーム」があったのかもしれない。
下層階の印象は、ひとことで言えば「庶民の戦場」だ。
地味な内装に、ひしめき合うテーブル。
客は多く、ワイワイガヤガヤと騒がしい。
「チーン」というベット締め切りのベルが、終始響いていた。
ディーラーはロボットのように無表情で、
香港人、中国人の客たちは淡々とチップを動かしていく。
外国人はおそらく僕だけ。
(後日、日本人の“プロっぽい”男を一人見かけたが。)
大きく勝ったときにチップを渡さないと、
ディーラーが「無言の圧」を放ってくる。
貧乏人がカジノから搾取されている――そんな風に感じてしまった。
上層階は、まるで別世界だった。
エスカレーターを上がると、空気が変わる。
金ピカの内装。
エスカレーター付近に、人影はない。
声の聞こえる方へ進むと、そこにバカラのテーブルがあった。
客は少なく、テーブルの間隔も広い。
富豪たちはお茶を飲みながら談笑し、
ディーラーもその会話に加わる。
ゲームは“勝負”というより“社交”のようだった。
テーブルの中央には、美しく優雅な女性ディーラーが立ち、
静かに札を配る姿が、まるで舞台の一幕のようだった。
僕は、流石に、思った。
――俺…場違いだよな。
居心地の悪さと緊張に押され、下層階へと戻った。
現在のリスボアでは、VIPエリアに入るには
当然、アクセス要件がある。
昔の僕のような、場違いな旅人がふらりと迷い込む余地はもうない。


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